「自己紹介から始める」を疑ったとき
4月の学級びらき、
私は子どもたちに何の疑いもなく
「まず自己紹介をしよう」
と声をかけました。
それが学級びらきというものだと、
ずっと思っていたから。
きっと、同じような経験が
ある方も多いんじゃないでしょうか。
でも今は、自己紹介はしていません。
代わりに必要なことが、一つあります。
それが何かは、
この記事を最後まで読んでもらえたら
わかってもらえると思います。
📝 自己紹介
「では一人ずつ、名前と
好きなことを言ってください」。
子どもたちは順番に立って、
短い言葉を言いました。
「△△です。サッカーが好きです」
「△△です。ゲームが好きです」。
全員が終わって、私はふと思いました。
——で、このあとどうするんだっけ。
翌日、子どもたちに
「昨日△△さんって
何が好きだって言ってたっけ?」
と聞いてみました。
すると
ほとんどの子が答えられませんでした。
私自身も、全員のことを
覚えていませんでした。
自己紹介は「やった」という
事実だけが残って、
子どもたちの間には
何も残っていませんでした。
なんとなく気まずい、
あの感じ——わかります?
若手の教師ほど、
この「学級びらきの儀式」を
疑わずにこなしがちだと思います。
先輩がやっているから、
本に書いてあるから——私もそうでした。
でも一度、
立ち止まって考えてみてほしいんです。
その自己紹介、
誰のためにやっているでしょうか?
そもそも、なぜ自己紹介は必要ないのか
「自己紹介をやめよう」と言うと、
「でも子どものことを知るために
必要じゃないか」
という声が返ってくることがあります。
その気持ち、すごくわかります。
私もずっとそう思っていました。
でも少し、
一緒に考えてみてほしいんです。
学校の友達は
「趣味が合うから仲良くなる」
相手ではなく、
「一緒に学ぶ中でわかり合っていく」
仲間です。
放課後も一緒に遊ぶ親しい友達なら、
好きなゲームや趣味を
知ることに意味があるかもしれません。
でも学校のクラスは、少し違います。
好みが合うかどうかに関係なく、
同じ教室で同じ授業を受け、
同じ課題に取り組む。
それが学校という場ですよね。
だとすれば、
クラスの仲間を知るために
必要な情報は「趣味や好きなもの」ではなく、
「一緒に活動したときにどんな人か」
ではないでしょうか。
それは自己紹介では絶対にわかりません。
活動を通じてしか、見えてこないんです。
自己紹介で得られる情報は、
その子のほんの一部にすぎません。
しかも、安心できていない場所では
「本当の一部」ですらないんです。
📝 本当のことを話すこと
以前、人前で話すことが
苦手な子を担任したことがあります。
自己紹介の順番が回ってきたとき、
その子は立ち上がったまま
長い沈黙が続きました。
クラス全体が静まり返って、
私も
「待つべきか、声をかけるべきか」
判断できずにいました。
その子はなんとか小さな声で
名前だけ言いました。
でもその後しばらく、
授業中に発言することを
ためらうようになってしまいました。
まだ安心できていない場所では、
人は本当のことを話せません。
自己紹介の場で出てくる言葉は、
「本当の姿」ではなく
「いちばん無難な答え」なんです。
それは子どもだって、大人だって、
同じだと思います。
つながりは、自己紹介の一言で
つくるものではありません。
活動の中で
お互いを知っていくことでしか、
本物のつながりはできません。
だから自己紹介は必要ない
——というのが、私の考えです。
答えは「自己開示」——教師こそ、先に話す。
ここで、冒頭の問いに答えます。
学級びらきで自己紹介より必要なのは、
自己開示です。
「自己紹介」と「自己開示」
——似ているようで、全然違います。
自己紹介は「好きなものを話す」こと。
自己開示は「本当のことを話す」こと。
その違いが、関係の深さを決めます。
「好きな食べ物はラーメンです」は
自己紹介です。
でもそれを聞いても、
その人との関係は何も変わりません。
一方、
「実は人前で話すのが今でも怖い」
「若いころ、クラスを
うまくまとめられなくて悩んでいた」
——そういう言葉は、
聞いた相手との距離を一気に縮めます。
人は、話したいと思える相手にしか
話しません。
話したいと思える相手とは、
「話しても大丈夫だ」と感じた
相手のことです。
その感覚は、
相手が先に自分のことを
開いてくれたときに生まれます。
📝 できないことを言える
体育の授業で、
縄跳びのはやぶさ跳びの
練習をしていたときのことです。
「先生、できるの?」と聞かれて、
正直に答えました。
「実は先生、はやぶさ跳びできない、
でも練習中!!」と。
それまで
「できない」と言えずにいた子が、
「実は私もできないよ」と言いました。
その日の授業は、
ペアで一緒に練習する時間でした。
理科の授業では、
「先生は実は理科が得意じゃないよ。
しっかり実験の準備をするけど、
うまく伝えられないときもある」
と話しました。
すると黙って手が止まっていた子が、
「じゃあ一緒に考えよう」と
隣の子に声をかけていました。
教師が「苦手だ」と言えると、
子どもも「苦手と言っていい場所だ」
と感じます。
自己開示は、教師側から始めると
ハードルは下がりやすいと思います。
だから私が学級びらきで話すのは、
趣味でも特技でもありません。
💬 私が学級びらきで実際に言うこと
「先生の名前は△△です。
先生が大事にしていることは一つだけ。
人の話を最後までちゃんと聴くこと。
先生はみんなの話を聴きます。
だから、みんなにも話す人の言葉を
最後まで聴いてほしいです。
「先生も得意なことばかりじゃないです。
苦手なこともあるし、失敗もします。
間違ったことをしたときには
それをちゃんと謝れる先生でいたいと
思っています。」
子どもが「深いこと」を
話してくれるようになるのは、
教師が先に深いところを
見せてくれたと感じたときです。
自己開示は、勇気を持って
教師側から始めましょう。
それが、本当のつながりへの
入口になります。
子どものことは、授業の中で知っていく
「自己紹介をなくして、
どうやって子どもたちのことを知るんだ」
という話になります。
答えはシンプルで、
授業の中で知っていけばいいんです。
子どものことは、一度の自己紹介より、
毎日の授業の積み重ねの方が
ずっとよく教えてくれます。
最初の一週間、私は子どもたちを
観察することに集中します。
どんな場面で目が輝くか。
失敗したときにどんな顔をするか。
隣の子への話しかけ方、
誰かのミスへの反応——。
そういうものが積み重なって、
その子のことが見えてきます。
📝 自己紹介でわからないこと
国語の音読で声が出なかった子が、
理科の実験では班のみんなに
話しかけていました。
算数のグループ活動では黙っていた子が、
体育では大きな声を出していました。
自己紹介では「ゲームが好きです」
しか言わなかった子が、
図工の時間に誰よりも
丁寧に色を塗っていました。
その姿を見て、
「あ、この子はこういう子だったんだ」と思いました。
教科が変わると、子どもは変わります。
「その子らしい」姿は、
授業を重ねないと見えてきません。
自己紹介の一言では、
絶対にわからないんです。
「知る」のを焦らなくていい
若いの先生ほど
「早く把握しなきゃ」と焦りがちです。
でも性急に「わかった」と思い込む方が、
関係を壊すことがあります。
最初の印象だけで
「この子はこういう子」
と決めつけてしまうと、
その子が別の姿を見せてくれたとき、
それを見落としてしまいます。
授業を重ねながら、
少しずつ知っていけばいいのです。
小さな関わりが、つながりをつくる
授業の中で子どもを
知っていくということは、
じっと観察するだけではありません。
小さな声かけや反応の積み重ねが、
つながりをつくっていきます。
1日目に自己紹介をして
「知り合い」になるより、
1週間授業を一緒にして
「少しわかってきた」の方が、
よっぽど本物のつながりに
近いと思っています。
「聴き合える関係」が学級経営の土台になる
授業の中で子どもを
知っていくことには、
もう一つの意味があります。
それは、教師が
子どもの話を聴く姿勢を
授業そのものを通して見せていく、
ということです。
「ちゃんと聴きましょう」と
言葉で指導するより、
教師が一人ひとりの発言をちゃんと
受け取っている姿の方が、
「聴くとはこういうことだ」
が伝わります。
私が大事にしていること
学級経営で私がいちばん最初に
大切にしているのは、
子どもたちが
「聴き合える関係」
をつくることです。
自分の話を最後まで
聴いてもらえた経験がある子は、
次に話すとき、
安心して言葉を出すことができます。
逆に、話を遮られたり
聞いてもらえなかった経験が続くと、
人は話すこと自体をやめてしまいます。
だから私は子どもたちに必ず
「話す人の中には、先生も入っている」
と伝えます。
教師の話だから特別に聴くのではなく、
クラスの一員として
話している人の言葉を聴く。
そして私自身も、
子どもたちの話を
同じクラスの一員として聴きます。
先生だから正しい、
ということもありません。
「私はこう思っている」という言い方を、
指導の場面で大切にしています。
自己紹介をやめるかやめないか、
本人の自由です。
でも、その先にある
「授業の中で自然に関わり、
子どもを知っていく」という姿勢——
それが積み重なって、
聴き合える関係になり、
学級経営の土台になっていきます。
4月の最初から完璧なクラスを
つくろうとしなくていいんです。
毎日の授業を丁寧にやること。
子どもに興味を持って関わること。
それだけでいい。
それだけで、
つながりはちゃんとできていきます。
この記事が、4月の学級びらきを
考えるきっかけになれば嬉しいです。
同じように悩んでいる先生のもとに
届けばと思っています。
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