はじめに
学級経営がうまくいかない。
やんちゃな子に振り回され、
支援が必要な子への対応に追われ、
周りと馴染めない子が
教室の隅で孤立している。
そんな日々の中で、
私は悩んでいました。
どうすれば子どもたちと
信頼関係を築けるのか。
その答えは、意外にも体育の
「個人種目」にありました。
跳び箱、マット運動、短距離走、
ハードル走、走り高跳び、走り幅跳び。
これらは一見、
一人で取り組む種目に見えます。
しかし、この個人種目にこそ、
子どもたちを繋ぐ
大きな可能性があるのです。
特別なルールを作らなくても、
グループでの学び合いを取り入れることで、
“あの子”が輝き、
クラス全体の関係性が変わっていく。
今日は、個人種目を
グループで取り組むことの意味と、
その実践方法をお伝えします。
なぜ個人種目でグループなのか
「個人種目は一人で頑張るもの」。
そう考えていた私は、
ずっと間違っていました。
個人種目だからこそ、
グループで取り組む価値があるのです。
一つ目の理由は、
失敗が許される安心感です。
球技などの団体競技では、
ミスをすると「チームに迷惑をかけた」
という罪悪感を抱きやすい。
しかし個人種目なら、
自分のペースで挑戦できる。
そして、その挑戦を見守り、
応援してくれるグループがいることで、
失敗しても「次、頑張ろう」と
思える環境が生まれます。
二つ目は、
多様な視点が得られることです。
自分では気づかない課題を、
仲間が見つけてくれる。
「もう少し腕を伸ばしたら跳べそう」
「助走のスピードが上がってきたね」
そんな具体的なフィードバックが、
一人では見えなかった成長への
道筋を照らしてくれます。
三つ目は、
誰もが実技に挑戦し続けられることです。
全員が「跳ぶ人」「走る人」
として活動する。
その中で、仲間の視点を借りながら
自分の課題に向き合う。
これが個人種目のグループ学習の本質です。
個人種目でのグループづくりの原則
1. 異質なメンバーで組む
運動能力が似た子同士で
グループを作るのではなく、
あえて得意な子と
苦手な子を混ぜます。
得意な子は、
自分の動きを言語化して伝えることで
理解が深まります。
苦手な子は、
できる子の動きを間近で見て
具体的なイメージを持てます。
そして最も重要なのは、
互いの違いを認め合う経験です。
私のクラスで印象的だったのは、
跳び箱が大の苦手なA君と、
体育が得意なB君のやり取りでした。
B君が
「俺も最初は怖かった。でも手をつく場所を
意識したらできるようになった」と
自分の経験を話すと、
A君の表情が変わりました。
「得意な子も最初から完璧ではなかった」
という事実が、A君に勇気を与えたのです。
2. 3〜4人の小グループを基本とする
人数が多すぎると、発言できない子や
待ち時間が長くなる子が出てきます。
3〜4人が最も適切です。
このサイズなら、
やんちゃで落ち着きのない子も
自分の役割を見つけやすく、
周りと馴染めない子も
関係を築きやすくなります。
個人種目×グループ学習の実践例
実践1:短距離走での「全員挑戦者」システム
短距離走は個人競技の代表格です。
しかし、これをグループで取り組むと
驚くほど盛り上がります。
4人グループで、
それぞれの50m走のタイムを測定します。
そして
「グループ全員の合計タイムを縮める」
ことを目標に設定します。
個人のタイムではなく、合計タイム。
速い子が0.1秒縮めるのも、
遅い子が0.1秒縮めるのも、
同じ価値があります。
重要なのは、
全員が走者として何度も挑戦することです。
測定も交代制にし、誰かが記録係に
固定されることはありません。
走る、測る、話し合う、また走る。
このサイクルを繰り返します。
グループで話し合います。
「スタートダッシュを意識しよう」
「腕の振りを大きくしてみよう」
そして一人ずつ走り、タイムを測り、
また話し合う。
運動が苦手だったC君は、
最初17秒でしたが、
グループで腕の振り方を工夫し、
3回目には16.5秒に。
たった0.5秒ですが、
グループの合計タイムに
大きく貢献しました。
「C君のおかげで記録更新だ!」
と仲間が喜ぶ姿を見て、
C君は照れながらも
嬉しそうに笑っていました。
実践2:跳び箱での「段階別同時挑戦」
跳び箱は「跳べる・跳べない」が
明確になりやすく、
苦手な子にとっては
苦痛な種目になりがちです。
しかし、グループでの
段階的挑戦を取り入れることで
状況は一変します。
体育館に2段から6段まで、
様々な高さの跳び箱を用意します。
グループ内で、それぞれが
「今日の目標」を宣言します。
得意な子は
「6段を開脚跳びで跳ぶ」、
苦手な子は
「3段の跳び箱を跳び越える」
目標は違っても、
全員が「自分の壁に挑戦している」
という点では同じです。
ここで大切なのは、
苦手な子も得意な子も、
同じように「跳ぶ」ことに
挑戦し続けることです。
一人が跳んだら、
グループで「良かった点」を
一つずつ伝えます。
「踏切が力強かったよ」
「着地が安定していた」
こうした具体的なフィードバックを
全員が受け取ります。
ずっと体育を避けていたDは、
グループの仲間に
「今日は3段に挑戦してみようよ」
と励まされ、
初めて跳び箱を
跳び越えることができました。
その瞬間、グループ全員が
自分のことのように喜んでくれました。
Dは
「見ているだけじゃなくて、
自分も跳べた」という
達成感を味わったのです。
実践3:ハードル走での「課題共有システム」
ハードル走は、
個人の技能差が顕著に現れる種目です。
だからこそ、
グループでの取り組みが光ります。
4人グループで、
一人ずつハードルを跳びます。
その際、他のメンバーは
走っている様子を観察します。
跳び終わったら、
グループで話し合います。
「跳び越える時の足の角度はどう?」
「インターバルのリズムは一定?」
ここで重要なのは、
観察する側も次は走る側になる
ということです。
だから観察は真剣になります。
「自分が跳ぶときにも役立つかもしれない」
という視点で仲間を見るのです。
得意なE君は最初、
自分のフォームに自信を持っていました。
しかし仲間から
「着地の後、次のハードルまでの
リズムが乱れている」と指摘され、
ハッとしました。
自分では気づかなかった
課題が見えたのです。
苦手なFは、
ハードルを跳び越えることは
できませんでしたが、
「助走のスピードが前回より速くなった」
「ハードルの前で止まらなくなった」と
具体的な成長を仲間に伝えてもらいました。
Fは「応援してもらう」のではなく、
「挑戦している姿を見てもらい、
フィードバックをもらう」
という経験をしたのです。
個人種目のグループ学習で大切にしたいこと
1. 全員が「実技者」であり続ける
苦手な子を記録係や応援係に
固定してしまうと、その子は
「できない子」として
周辺化されてしまいます。
そうではなく、
全員が跳び、走り、挑戦し続ける。
その中で互いに学び合う。これが原則です。
役割は流動的です。
今は走っている人が、
次は測定する人になる。
今は跳んでいる人が、
次は観察する人になる。
全員が全ての役割を経験することで、
多角的な視点が育ちます。
2. 「比較」ではなく「成長」に焦点を当てる
「誰が一番速いか」
「誰が一番高く跳べるか」
という比較は、
必ず序列を生み出します。
そうではなく、
「昨日の自分と今日の自分」
を比べることを大切にします。
グループの中で
「先週より○○が良くなったね」
「この部分が成長してるよ」と
伝え合う文化を作ります。
すると、
運動が苦手な子も
「自分も成長している」
と実感でき、
得意な子も
「もっと高みを目指そう」と
意欲が高まります。
3. 失敗を「学びのチャンス」に変える
個人種目では、
失敗が目に見えます。
跳び箱が跳べない、
ハードルに足が引っかかる、
タイムが伸びない。
しかし、グループがいることで、
その失敗が「次への学び」に変わります。
「どこが課題だったか」を
グループで考え、
「じゃあ次はこうしてみよう」と
前向きに切り替える。
この経験が、失敗を恐れずに
挑戦する力を育てます。
個人種目のグループ学習が学級経営に与える影響
個人種目でのグループ学習は、
確実に教室での関係性を変えます。
体育館で
仲間の小さな成長を見つけて
喜んでいた子は、
教室でも友達の良いところに
気づけるようになります。
自分の課題に真剣に向き合っていた子は、
学習でも粘り強く取り組むようになります。
私のクラスで大きな変化があったのは、
跳び箱の単元が終わった後でした。
ずっと孤立していたG君が、
算数のグループ学習で初めて
自分から意見を言ったのです。
「この方法でやってみたらどうかな」と。
聞けば、体育のグループで
「意見を言っても大丈夫だ」という
安心感を得たのだそうです。
体育で築いた関係性が、
教室での学びにも繋がっていました。
おわりに
個人種目だからこそ、
グループで取り組む。
一見矛盾しているようですが、
この組み合わせこそが、
“あの子”を輝かせる鍵なのです。
やんちゃな子も、苦手意識の強い子も、
周りと馴染めない子も、支援が必要な子も。
誰もが自分の目標に挑戦しながら、
仲間と繋がっていく。
特別なルールを作らなくても、
全員が実技者として挑戦し続けることで、
自然に子どもたちは繋がっていきます。
まずは明日の体育の授業で、
たった一つだけ変えてみてください。
跳び箱の授業なら、
3〜4人のグループを作り、
「今日の自分の目標」を
一人ひとりに宣言させる。
それだけでいいのです。
短距離走なら、グループで
「合計タイムを縮める」という
目標を共有する。
それだけで、
子どもたちの表情が変わり始めます。
完璧な授業を目指す必要はありません。
小さな一歩を踏み出すことが大切です。
あなたのクラスの”あの子”が、
グループの中で笑顔を見せる瞬間。
仲間から「すごいね」と言われて
照れくさそうにする瞬間。
その瞬間を見逃さないでください。
その小さな変化こそが、
学級経営を変える始まりです。
体育館で生まれた笑顔は、
必ず教室に戻ってきます。
そして気づけば、
あなたのクラスは温かい空気に
包まれているはずです。
さあ、明日から始めましょう。
子どもたちは、
あなたの小さな一歩を待っています。
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