わたしは3歳から水泳を始めて、
高校卒業まで選手として泳いでいました。
水泳歴は長いです。でも気づいたのは、
「泳げること」と「泳ぎを教えられること」は、
まったく別のことだということでした。
「わかる」と「できる」は違う
感覚で泳いできたわたしには、
泳げない子の「こわさ」も「なぜできないか」も、
正直、最初はわかりませんでした。
「もっとこう、スッと顔を横に向けて」
「ドンっと蹴ったらスーっと進むから」
擬音語・擬態語で伝えても、
苦手な子には全然届いていませんでした。
何度言っても変わらない。
「わかった」と言うけど、体は動かない。
あのとき子どもたちは、言葉の意味はわかっても
「どう動かすか」がわからなくて、
困っていたことに後から気づきました。
泳げない先生でも、子どもを泳げるようにするには…
変わったのは、大学生のときでした。
スイミングスクールでインストラクターとして働き始めて、
「泳げない人に、泳ぎを言葉で伝える」ことを初めて学びました。
感覚を「なぜそうなるのか」に分解して、
順番に伝えれば、苦手な子でも必ず変わる。
その経験が、いまのわたしの指導の土台になっています。
泳ぎが苦手な先生でも、理屈を知って言葉で伝えられるようになれば、
得意な先生と同じように指導できます。
むしろ、苦手だからこそ丁寧に分解して伝えられる強みがあると思っています。
今日はそのことを、具体的にお伝えします。
水泳を嫌いにさせる言葉のかけ方とは?
プール授業で、こんな声かけをしていませんか。
「もっと顔を水につけて」
「みんなできてるよ」
「もう一回やってみよう」
先生に悪気はありません。
でも、その言葉を受け取った子の心の中では、
静かに「自分はダメだ」という経験が積み重なっていきます。
泳げるようにしようと頑張るほど、
水泳が嫌いな子を増やしてしまうことがあります。
プール授業の本当の目的は「泳力アップ」ではありません。
「安心できる体験をつくること」
だとわたしは思っています。
「頑張らないようにすること」を頑張る
苦手な子に共通する、あるあるがあります。
「早く進もう」「うまく泳ごう」とするとき、体に力が入る。
腕を力いっぱいかく、足を強くバタバタさせる。
でも、それをすると沈んでしまいます。
水の中では、力を入れれば入れるほど体は沈んでいきます。
動きが多くなるほど、沈みます。
これは子どもの感覚と、真逆なんです。
陸の上では「頑張る=力を入れる」が正しい。
でも
水の中では、「頑張る=力を抜く」が正しいんです。
人間の体は、力を抜いた状態で自然と浮くようにできています。
息を吸って肺に空気が入っていれば、
何もしなくてもほぼ浮くことができます。
「泳げない」んじゃなくて、「力が入りすぎて沈んでいる」だけ。
そう子どもに伝えると、顔つきが変わります。
水面から出た瞬間、体重が10倍になる
水の中にいるとき、体重は約10分の1になります。
体重60kgの人なら、水中では約6kgの感覚です。
でも水面から体が出た瞬間、
その部分は重力をそのまま受けます。

この落差が「体が一気に沈む」感覚の正体です。
頭が上がると、足が下がる
頭は体の中でもっとも重い部位です。
その頭を大きく水面に上げると、
シーソーと同じ原理で足が沈んでいきます。

「もっと大きく息を吸おう」とするほど逆効果。
できるだけ水面から出ない、小さな動きが正解です。
余計な動きをやめて、必要な動きだけをする。
これが水泳の基本であり、息継ぎの話にも直結します。
正しい息継ぎの動きを知ること
この「力を入れすぎる」問題が、
息継ぎでも同じ形で出てきます。
息継ぎで困っている子のほとんどに、共通することがあります。
それは、
「息を吸おうとして、体ごと水面に上がってしまっている」
ということです。
「息継ぎが下手」なんじゃなくて、
「体が沈まない息継ぎのやり方を知らない」だけなんです。
正しい動きが伝われば、ほとんどの子は変わります。
① 前の手は動かさない
息継ぎのとき、前に伸ばしている手が無意識に下がってしまう子が多いです。
この手をしっかり前に置いたままキープすることで、
体が沈みにくくなります。
前の手が下がると体が沈み、余計に苦しくなります。
「前の手の位置」を見逃さないようにしましょう。
「前の手は、水の上に置いたまま動かさない」
こう言葉にすると、子どもに伝わりやすいです。
動かずに前に伸ばしている手は浮力が発生するので、浮き輪のような役割をします。
そして、片手を回して両手が頭の上でそろうまで、前の手は動かさないようにしましょう。
② 顔は横に向けるだけ
顔は「持ち上げる」のではなく、
「横に向けるだけ」です。
前に残っている手と耳がくっつけるイメージで、
できるだけ小さな動きで顔を横向ける。
それだけで口が水面に出るようになります。
体が水面に上がらなければ、小さな動きだけで息が吸えます。
「大きく動かない」と伝えることが、息継ぎ上達の近道です。
泳がせようとしない方が、泳げるようになる?
いきなり泳がせようとせずに、少しずつ段階を踏めば、苦手な子でも必ず変化が現れてきます。
STEP 1|水の中で歩くだけでいい
プールの中で立ったまま、ビート板を両手で前に持ち、
歩きながら息継ぎの動作だけを繰り返します。
片手をかいて、前の手はビート板をキープ。
顔を横に向けて、息を吸う。
「泳がなくていい」という安心感が、
体の余計な緊張を取ってくれます。
STEP 2|ビート板を離さない。
足を底から離して、バタ足をしながら進みます。
片腕だけ回して、息継ぎの動作を確認します。
「前の手はビート板を持ったまま離さない」という制約が、
自然と正しい姿勢をつくってくれます。
STEP 3|トライアンドエラーの繰り返し
ビート板を持ちながら、両手でかく動作を加えます。
ここで初めて、本物のクロールに近い動作になります。
失敗したくないので、息継ぎをたまにしかしない。
これも上達が遅れてしまいます。
うまくいかなくて大丈夫です。
途中で足をついてもOK、何度も挑戦しましょう。
STEP 4|「立っても良いよ」と言うと、子どもたちが泳ぎ始める
ビート板を放して泳ぎます。
でも「途中で立ってもいい」は継続です。
「途中で立っちゃダメ」というプレッシャーが、
体を固くさせる一番の原因です。
「立っていいよ」と伝える方が、
「立ってたまるか」と子どもはやる気が出てくるのです。
水泳の授業の本当のゴール
プール授業が終わったとき、
子どもたちに残ってほしいのは
「なんかちょっとできた気がする」
「怖かったけど、やってみたらできた」
「あの子に応援してもらえた」
そういう経験が、プール授業の大事なところだと思っています。
理屈を知って伝える。
それだけで、苦手な先生の指導でも、必ず子どもたちには変化が現れます。
あとは、子どもの「ちょっとできた」を一緒に喜べる先生でいるだけでいいんです。
水泳の指導が苦手だと感じている先生に、
伝えたいことがあります。
うまく泳げなくていいんです。
完璧に教えられなくていいんです。
理屈を知って、言葉にして伝える。
それだけで、子どもは変わります。
「先生に教えてもらったら、できた」
その一言が、あなたへの信頼になり、
クラスの空気を変えていきます。
プールの授業がこわかった先生が、
子どもの「できた!」を引き出せる先生になる。
そのきっかけが、この記事であればうれしいです。
苦手だからこそ、丁寧に伝えられる。
苦手だからこそ、子どもの気持ちに寄り添える。
それがあなたの、最大の強みです。
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