はじめに|「同じ教室にいても、見えている世界は違う」
「どうして、この子はこんなふうに感じるんだろう?」
教育現場では、子どもの言動を理解しようとしても、その背景にある「感じ方」や「見えている世界」までは、なかなか想像できないことがあります。
今回のイベントでは、教員コミュニティ『ジーニー』の特別支援教育の専門オープンチャット「“教育現場”から学ぶ特別支援教育」の企画として、共感覚アーティストの山口葵さんをゲストにお迎えしました。
テーマは、「共感覚」と「知覚の多様性」。
一人ひとりが異なる感覚を持っていることを知ることで、これまで「なぜ?」と思っていた子どもの行動が、少し違って見えてくるかもしれません。
今回は、山口さん自身の経験や、教育現場での具体的なエピソードを通して、共感覚について考えました。
1.共感覚とは?|一つの刺激から、別の感覚が生まれる世界
共感覚(シナスタジア)とは、一つの感覚刺激をきっかけに、別の感覚が自動的に生じる知覚現象です。
例えば、
- 文字や数字を見ると、特定の色を感じる
- 音や声を聞くと、色や形が浮かぶ
- 言葉や感情から、特定の色やイメージを感じる
など、さまざまな現れ方があります。
今回のゲストである山口葵さんは、大阪芸術大学で美術を学びながら活動する共感覚アーティストです。
ご自身の「感じ方」を作品として表現し、SNSでも多くの人に発信されています。
イベントでは、そんな山口さん自身の体験を通して、「共感覚とはどのような世界なのか」を教えていただきました。
「みんな同じように見えている」とは限らない
私たちは普段、「赤は赤」「文字は文字」「音は音」と、ある程度同じ世界を共有していると思っています。
しかし、実際には、一人ひとりの知覚のあり方には違いがあります。
だからこそ、教室の中で「普通はこう感じるはず」と決めつけてしまうと、その子が感じている世界を見落としてしまう可能性があります。
2.「見えないしんどさ」|共感覚のある学校生活
山口さんのお話で特に印象的だったのが、共感覚は「面白い個性」だけではなく、ときに大きな負担にもなり得るということでした。
例えば、文字に色がついて感じられることで、本を読むときに文字そのものよりも色に意識が引っ張られてしまう。
情報が多くなりすぎることで、強い疲労感や不快感につながることもあるそうです。
また、数字が人物のように感じられることで、計算に集中しづらくなるなど、学習そのものに影響する場合もあります。
さらに、思春期になると、
「変な人だと思われたくない」
「こんなことを言ったら、中二病だと思われるかもしれない」
と、自分の感じ方を周囲に伝えられなくなることもあります。
つまり、周囲からは見えにくいところで、本人が一人で「生きづらさ」を抱えている可能性があるのです。
共感覚は「困りごと」だけではない
一方で、共感覚による独特の感じ方は、豊かな表現力や記憶、創造性につながることもあります。
| 内容 | |
| 課題・負荷 | 文字や音などの情報が多く感じられ、疲れやすい。学習への集中が難しくなることもある |
| 強み・可能性 | 色や形などが記憶の手がかりになり、独自の発想や表現につながることがある |
大切なのは、「共感覚だから困る」「共感覚だから才能がある」と一括りにすることではありません。
その子にとって、その感じ方が「楽しいものなのか」「困っているものなのか」を知ることが大切です。
3.教育現場で考えたいこと|「間違い」の前に、その子の感じ方を知る
イベントの中では、印象的な具体例も紹介されました。
例えば、アサガオの芽を赤く塗った子がいたとします。
大人から見れば、「アサガオの芽は緑だから、間違い」と考えてしまうかもしれません。
しかし、その子が「アサガオ」という言葉から赤色を感じていたとしたら?
その子にとっては、単なる間違いではなく、「そう感じたから、そう表現した」という可能性があります。
もちろん、すべての「赤く塗る」という行動を共感覚と結びつけることはできません。
大切なのは、
「なぜ、この子はこう表現したんだろう?」
と、一度立ち止まって考えてみることです。
教員にできる3つのアプローチ
① 受け止める
「あなたには、そう見えるんだね」
「そう感じたんだね」
と、まず本人の感じ方を否定せずに受け止める。
正解・不正解を判断する前に、「その子にはそう感じられている」という事実を尊重します。
② 対話する
「それって、楽しい感じ?」
「それとも、ちょっと困っている?」
「どんなふうに見えるの?」
など、本人に尋ねてみる。
大人が想像だけで判断するのではなく、本人の言葉から理解していくことが大切です。
③ 環境を調整する
もし視覚や聴覚から入ってくる情報が負担になっているのであれば、環境を調整できる可能性があります。
例えば、
- 教材の色や配色を工夫する
- フォントカラーを調整する
- 情報量を減らす
- 必要に応じて視覚・聴覚的な刺激を減らす
など、その子に合った方法を一緒に探していくことができます。
4.「言葉にできない」をどう支える?|『かんかくカード』の可能性
今回のイベントでは、山口さんが開発している「かんかくカード」についても紹介していただきました。
「今の気持ちを言葉にしてみよう」
そう言われても、自分の感情をすぐに言葉にできるとは限りません。
特に、子どもにとっては「悲しい」「楽しい」「嫌だ」といった言葉だけでは、自分の感覚を十分に表現できないこともあります。
そこで、「色」や「形」を入り口にして、自分の内側にある感覚を表現してみる。
それが「かんかくカード」です。
これは、
「この色=悲しい」
「この形=嬉しい」
と、感情を決めつけるためのものではありません。
「なんとなく今の自分に近い」
そんな感覚からカードを選ぶことで、自分の内面を少し離れたところから眺めるきっかけをつくります。
言葉にすることが難しい子どもにとって、「話す」前に「選ぶ」「感じる」「表現する」という入り口があることには、大きな意味があるのではないでしょうか。
5.「特性がない子はいない」|違いを「間違い」にしない
今回のイベントで、とうや先生から出た
「特性がない子はいない」
という言葉も、とても印象に残りました。
特別支援教育というと、「特別な支援が必要な子ども」を対象に考えてしまいがちです。
しかし、見方を変えれば、私たちはみんな、それぞれ違った感じ方や得意・不得意を持っています。
同じ教室にいても、
- 音が気になりやすい子
- 色や光に敏感な子
- 言葉より絵のほうが理解しやすい子
- 人との距離感をつかむのが得意な子、苦手な子
- 自分の気持ちを言葉にするのが得意な子、苦手な子
など、一人ひとり違います。
だからこそ、「みんな同じようにできること」を基準にするのではなく、
「この子は、どんなふうに世界を感じているんだろう?」
という視点を持つことが、子ども理解につながるのだと思います。
6.まとめ|「違いを間違いにしない」教室へ
今回のイベントを通して考えたのは、共感覚そのものだけではありません。
私たちは、普段どれだけ「自分と同じように、相手も世界を見ている」と考えているのだろう。
そんな問いです。
子どもの行動を見て、
「なんでそんなことをするの?」
と感じたとき。
すぐに「間違い」と判断するのではなく、
「この子には、どんなふうに見えているんだろう?」
「何を感じて、こうしたんだろう?」
と、一度立ち止まってみる。
その小さな視点の変化が、子どもとの関係を変えるきっかけになるかもしれません。
共感覚を知ることは、共感覚のある子だけを理解するためのものではありません。
一人ひとりが違う感覚を持ち、違う世界を見ている。
その当たり前に気づくことこそ、すべての子どもが安心して過ごせる教室づくりにつながっていくのではないでしょうか。
「違いを間違いにしない。」
今回の学びを、これからの教育実践につなげていきたいと思います。
関連リンク
オープンチャット「“教育現場”から学ぶ特別支援教育」
https://line.me/ti/g2/dYNNqrfj8X5PDrIvtXhfCAi3SToSj5eaOOPUfg?utm_source=invitation&utm_medium=link_copy&utm_campaign=default
山口葵|共感覚アーティスト 公式サイト
https://aoiyam.com
次回開催のお知らせ
今回のお話を、今度は「聞く」だけでなく「体験する」機会をつくります。
10/3(土)21:30からの第2回共感覚ワークショップでは、「かんかくカード」を実際に使いながら、自分自身の感覚や感情を表現する体験を予定しています。
「自分の気持ちを、言葉以外の方法でも表現してみたい」
「子どもたちの感情表現について考えてみたい」
そんな方は、ぜひ次回のワークショップにもご参加ください。
参加希望の方は公式LINEまで【共感覚ワークショップ】とご連絡ください。
🔽教員コミュニティ『ジーニー』公式LINE


