イベント報告

【開催報告】待つほどに、子供は育つ――「心のゆとり」が教室の景色を変える。石井雄大氏と考える対話型セミナー

イベント報告

1.はじめに:2学期の始まりに、なぜ今「待つ」ことが必要なのか

夏休みが明け、2学期が始まるこの時期。

職員室には、「もっとクラスをまとめなければ」「子供たちをさらに成長させなければ」という熱意があふれます。

もちろん、子供たちのためにより良い学級をつくりたいという思いは、教師にとって大切な原動力です。

一方で、「もっと良くしたい」という思いが強くなりすぎると、教師自身の心から「ゆとり」が失われ、知らず知らずのうちに子供との距離を広げてしまうことがあります。

今回、教員コミュニティ『ジーニー』では、石井雄大氏をお招きし、子供との関わり方について考える対話型セミナーを開催しました。

テーマは、

「待つこと」

そして、

「子供と呼吸を合わせること」

です。

「子供をどう動かすか」ではなく、「子供の今をどう受け止めるか」。

本セミナーでは、教師が子供を変えようとすることを少し手放し、子供の変化を信じて「待つ」ことの意味について、石井氏自身の実践と参加者との対話を通して考えました。

2.登壇者プロフィール:現場と研究、両方の視点から教育を考える石井雄大氏

今回のセミナーでお話しいただいた石井雄大氏は、埼玉県の公立小学校で教員として勤務する一方、教育学の研究にも取り組んでいる実践者です。

専門は、学級経営、生徒指導、教育心理学。

現場で生まれた疑問を研究につなげ、そこで得た知見を再び教室で生かしていく。その往還を大切にされています。

これまでの研究・実践が評価され、

  • 2024年 日本生徒指導学会 研究奨励賞
  • 2025年 日本特別活動学会 全国推薦事例賞

を受賞されています。

そんな石井氏の話が多くの教員の心に響くのは、成功した実践だけを語るのではなく、自身の「うまくいかなかった経験」や「教師としての葛藤」を出発点としているからかもしれません。

その大きな転換点となったのが、教師3年目の経験でした。

3.教師3年目の挫折が教えてくれた「教師の呼吸」の限界

石井氏にとって大きな転機となったのは、教師3年目に6年生を担任したときのことでした。

大学院を修了したばかりだった石井氏は、学んできた教育理論を生かし、「対話的な学級づくり」に力を注いでいました。

しかし、教師の思いとは裏腹に、子供たちとの距離は少しずつ広がっていきます。

そんなある日、学級会の提案ポストに一枚の紙が入っていました。

そこに書かれていたのは、

「どうすれば先生とみんなが仲良くなれるか」

という言葉でした。

自分では「子供たちのために」と考えて取り組んでいたはずなのに、子供たちからは「先生と仲良くなるにはどうしたらいいのか」と問いかけられている。

その事実は、石井氏にとって大きな衝撃だったといいます。

当時は、教室の扉を開けることさえ苦痛に感じるほど、苦しい時期を過ごしたそうです。

その経験を振り返る中で、石井氏は当時の自分について、次のように捉え直します。

  • 解決策を急ぐあまり、子供の「今」にある背景を十分に見ようとしていなかった。
  • 「こうあるべき」という理想の型に子供を当てはめ、自分のペースに合わせようとしていた。

そして、子供を見る視点そのものを変えていきました。

「困った子」ではなく、

「困っている子」

として見る。

この視点の変化が、子供との「呼吸を合わせる」ための出発点になったのです。

4.「待つ」とは、何もしないことではない

では、なぜ私たちは子供を「待つ」ことが難しいのでしょうか。

石井氏が伝えていたのは、「待つこと」は決して放置することではない、ということです。

むしろ、子供の行動の背景にあるものを見ようとするための、積極的な選択です。

言葉にならないサインを見る

子供とのコミュニケーションでは、言葉だけでは分からないことがたくさんあります。

表情、姿勢、視線、声のトーン、そして何気ない「間」。

そうした言葉にならないサインを受け取るためには、教師自身にも「余白」が必要です。

目の前の授業や学級経営を予定通り進めることだけで頭がいっぱいになっていると、子供の小さな変化に気づくことが難しくなります。

だからこそ、少し立ち止まって「今、この子は何を感じているのだろう」と考える。

そのための時間が「待つ」ということなのかもしれません。

「問題行動」から「問題提起行動」へ

子供の立ち歩きや沈黙、授業からの離脱などを、単純に「問題行動」と捉えてしまうことがあります。

しかし、見方を少し変えてみると、それらは子供からの「何かがおかしい」というメッセージなのかもしれません。

「なぜ、この子は今立ち歩いているのだろう」

「なぜ、今は何も話さないのだろう」

そう問い直すことで、行動の奥にある子供の思いに目を向けることができます。

すぐに答えを出そうとせず、子供の「呼吸」に合わせて待つ。

その「余白」が、子供自身が考え、自分で選択するための安心感につながっていきます。

5.参加者との対話から見えてきた「呼吸を合わせる」具体策

セミナー後半では、参加者から寄せられた現場の悩みをもとに、石井氏との対話が行われました。

日々の教室で実際に起きている出来事を、石井氏が別の角度から捉え直していきます。

パニックや授業中の抜け出し

一見すると「わがまま」や「ルール違反」に見える行動も、

「今の環境が、この子にとってどれくらいしんどいのだろう」

と考えてみる。

行動そのものだけを見るのではなく、その背景にある「しんどさ」に目を向けることが大切です。

ノートを出さない、学習を拒否する

「やりたくない」の一言で片付けるのではなく、

「できない自分を周りに見られたくない」

「失敗するのが怖い」

といった自己防衛の可能性もあります。

「なぜ、この行動をしているのだろう」と考えることで、教師の関わり方も変わってきます。

6.子供の呼吸に合わせると、教室の「個性」が動き出す

石井氏からは、実際の学級づくりの中で、子供たちの呼吸に合わせたことでクラスの個性が自然に表れていった実践も紹介されました。

たとえば、1年生で行った「褒め言葉のシャワー」。

子供同士が互いを認め合う経験を重ねる中で、次第に自然なハグが生まれたり、褒める側が踊りながら表現したり、即興のミニ劇が始まったり。

教師がすべてをコントロールしなくても、安心できる空間ができることで、子供たち自身の個性が表れていったそうです。

一方、高学年になると、みんなの前で大げさに褒められることを恥ずかしく感じる子もいます。

そこで有効なのが、子供の発達段階や個性に合わせた「小さなアプローチ」です。

アイメッセージで伝える

「助かったよ」

「私は嬉しかったよ」

など、「あなたは○○だ」と評価するのではなく、自分の気持ちを伝える。

事実をそっと伝える

大げさに褒めるのではなく、

「さっき、○○してくれてたよね」

と、できた事実をそっと伝える。

子供によって、届きやすい言葉や関わり方は違います。

だからこそ、教師が一方的に「正しい関わり方」を当てはめるのではなく、その子の呼吸に合わせていくことが大切なのだと感じました。

7.2学期を乗り切るための「ゆるい約束」

最後には、参加者一人ひとりが、2学期に向けて「自分を追い込みすぎないためにできること」を考えました。

たとえば、

  • 「笑顔でおはよう、と声をかける」
  • 「昨日より元気?」と、子供の変化に目を向ける
  • 「私はあなたを嫌いではない」という気持ちを持ち続ける
  • どんな姿であっても、決して見捨てないという覚悟を持つ

どれも、大きな実践ではありません。

でも、毎日の教室でこうした小さな関わりを積み重ねることが、子供との信頼関係をつくっていくのかもしれません。

「もっと頑張らなければ」と自分を追い込むのではなく、まずは教師自身が少し呼吸を整える

それも、2学期の学級経営において大切な一歩なのだと思います。

8.おわりに:教師が「待てる場所」をつくる

今回のセミナーを通して見えてきたのは、「待つ」という言葉の奥深さでした。

待つことは、何もしないことではありません。

子供をよく見る。

その行動の背景を考える。

すぐに答えを出さず、子供自身の変化を信じる。

そのために、教師自身の中に「余白」をつくる。

石井氏自身の挫折から生まれた「呼吸を合わせる」という考え方は、忙しい毎日を過ごす教師にとって、大きなヒントになるのではないでしょうか。

今回紹介された石井氏の著書はこちらです。

📔『待つほど育つ子どもの力─教師3年目の挫折が教えてくれた“呼吸を合わせる”学級づくり』
https://audiobook.jp/product/274832?srsltid=AfmBOor_LZ2tj7rVVmVDI7MevQPA_ALaqCjtk7rt_HsXfe-1Ydbi_oky

子供との関わりに悩んだとき、「どうすればこの子を変えられるか」ではなく、

「この子は今、何を感じているのだろう」

と問い直してみる。

その小さな視点の変化が、教室の景色を変えるきっかけになるかもしれません。

そして、教師自身が一人で抱え込まないことも大切です。

教員コミュニティ『ジーニー』では、職員室ではなかなか話せない悩みも含め、社会科、体育、AI活用、学級経営など、さまざまなテーマについて教員同士が対話しています。

教師が自分を追い込み、孤立してしまうのではなく、仲間と一緒に考えながら、自分の中に「余白」をつくっていく。

子供を信じて「待つ」ということは、もしかすると、教師自身も自分の力を信じることなのかもしれません。

2学期の長い道のり。

まずは一度、大きく息を吐いてみる。

そして、目の前にいる子供の呼吸に、少しだけ耳を澄ませてみる。

そんなところから、2学期を始めてみてはいかがでしょうか。

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