2026年9月20日、シルバーウィークの中、大阪・桃山学院大学のキャンパスと全国各地のオンライン会場をつなぎ、「第12回 社会科オープンサロン」を開催しました。
今回のテーマは、いま教育現場でも大きな注目を集めている「生成AI」。
教員コミュニティ『ジーニー』が運営事務局を務め、小学校・中学校の実践や研究をもとに、生成AIを授業でどう活用するのか、そしてAI時代に社会科で何を大切にしていくべきなのかを、約3時間にわたって考えました。
AIは、これまでの「情報の外注化(ネット検索)」から、さらに一歩進んで「思考の外注化」まで可能にしつつあります。
では、AIが答えを出してくれる時代に、私たちは子どもたちに何を教え、何を評価していくのか。
当日の実践と対話から見えてきた、これからの社会科教育についてレポートします。

開催概要
- 日時:2026年9月20日(日)13:00〜16:00
- 場所:桃山学院大学 和泉キャンパス
- 形式:対面&オンラインのハイブリッド開催
- 登壇者
- 川端 裕介 先生(北海道立中学校 教頭)
- 宗實 直樹 先生(桃山学院大学 准教授)
- 横田 富信 先生(東京都公立小学校 指導教諭)
- 小田 和也 先生(名古屋経済大学 准教授/司会進行)
1.小学校の実践〜「思考の外注」か、「個別最適な伴走者」か〜
小学校でのAI活用では、AIを「答えを教えてくれる便利な道具」として使うのではなく、子ども一人ひとりの学びに寄り添う「伴走者」として活用する実践が紹介されました。
一方で、AIに頼りすぎることで、子ども自身が考える機会を失ってしまう可能性もあります。
AIという「外部脳」と付き合いながら、最後は人間がどのように判断するのか。
横田先生と宗實先生の実践から、これからの学習者の姿が見えてきました。
横田先生|教育ICTの歴史から考える「思考の外注化」
横田先生は、1960年代から続く教育ICTの変遷を振り返りながら、2023年以降に急速に普及した生成AIが、これまでとは異なる大きな転換をもたらしていると説明しました。
それが「思考の外注化」です。
教育心理学で知られる「2シグマ問題」では、1対1の個別指導を受けた学習者は、集団授業を受けた学習者よりも高い学習効果を得る可能性が示されています。
生成AIは、これまでコストや人数の面で難しかった「個別最適な学習」を、一定程度実現できる可能性があります。
しかし、AIには人間のような価値観や責任がありません。
だからこそ、AIの出力をそのまま受け入れるのではなく、
「自分はどう感じるのか」
「本当にこれでいいのか」
「自分はどう判断するのか」
と考えるプロセスが、これからの学びにおいてより重要になるというお話でした。
宗實先生|AIの「嘘」をクリティカル・シンキングの教材に
宗實先生からは、子どもたちが「地域の教科書」をつくる実践が紹介されました。
その中でAIを「ミニ宗實先生」として、子どもたちの調査や思考を支える伴走者として活用しています。
ここで興味深かったのが、AIの「ハルシネーション(事実とは異なる情報を生成すること)」を、あえて学びのきっかけとして活用している点です。
例えば、宝塚市の農家・中安さんについて調べた際、AIが実在する別の「中安さん」の情報を回答したことがありました。
子どもたちは、
「先生、AIが嘘をついた!」
と驚き、そこから資料集や聞き取り調査などを使ってファクトチェックを行いました。
AIが情報を一般化・均質化してしまうからこそ、実際に地域の人と関わり、自分の目や耳、感覚で確かめることに価値が生まれます。
AIの答えを受け入れるだけではなく、「違う」と判断して切り捨てる。
その判断こそが、これからの学びにおいて重要になるという実践でした。
小学校におけるAI活用のポイント
| 活用場面 | メリット | 懸念・課題 |
|---|---|---|
| 学習支援 | 個別に応じた学習支援が可能になる | 思考の安易な外注化・依存 |
| 表現・構成 | 教科書づくりなど、高度な編集作業を支援できる | 言葉の均質化、子どもらしさの喪失 |
| 情報の整理 | 大量の情報から要約・抽出できる | ハルシネーションへの対応 |
| 教員の役割 | 支援が必要な子どもへの関わりを深められる | AIとのやり取りや学習プロセスをどう評価するか |
2.中学校の実践〜「違和感」を「社会的な見方・考え方」の入り口に〜
中学校では、AIを「正しい答えを出してくれる道具」としてではなく、あえて「不完全な情報を提示する存在」として捉える授業実践が紹介されました。
AIの回答や生成物に対して「本当にそうなのか?」と問い直す。
その「違和感」を、社会科の学びにつなげていくアプローチです。
川端先生|AIの「不正確なイラスト」をツッコミどころに
川端先生からは、AIが生成した「不正確なイラスト」をあえて教材として活用する実践が紹介されました。
例えば、
- 五稜郭が本来の函館ではなく、ニセコ付近に描かれている
- 戦国武将の背景に現代のビル群が描かれている
といった、AIならではの「ズレ」を教材として活用します。
生徒たちは、その画像を見て「なんかおかしい」と感じます。
この「違和感」を出発点に、
「どこがおかしいのか」
「なぜこのような表現になったのか」
「本当はどうなっているのか」
を調べていきます。
つまり、AIの誤りそのものを問題にするのではなく、誤りや違和感を、社会科の問いにつなげていくのです。
AIの「回答」を一つの「説」として捉える
小田先生からは、AIの回答を、特定の立場から発信された一つの「説」として相対化する考え方も紹介されました。
AIは、もっともらしい回答を非常に速く提示してくれます。
しかし、その回答が必ずしも正しいとは限りません。
そこで、
「その根拠は何か?」
「なぜそう言えるのか?」
「別の見方はないか?」
と問い直す。
歴史的背景や地理的要因など、社会科で学んできた知識や資料をもとにAIの出力を検証することで、AIを「答えを得るための道具」から「問いを深めるための道具」へと変えることができます。
3.座談会・質疑応答〜AI時代だからこそ問われる「身体性」と「プロセス評価」〜
後半の座談会では、AI時代の評価のあり方や、これからの教員の専門性について議論が交わされました。
特に注目されたのが、AIを使って完成した成果物だけを見て評価するのではなく、そこに至るまでの「プロセス」をどう見取るかという問題です。
参加者からは、
「AIとの対話ログをテキストマイニングのように分析し、子どもの思考が事実的知識から概念的知識へと変化していくプロセスを見取る」
という具体的なアイデアも提示されました。
AIを使えば、完成した文章や資料を簡単につくることができます。
だからこそ、これからは「何をつくったか」だけでなく、
- どんな問いを立てたのか
- AIに何を尋ねたのか
- AIの回答をどう受け止めたのか
- どこに違和感を持ったのか
- どのように情報を検証したのか
- 最後に自分でどんな判断をしたのか
といった「学びのプロセス」を捉えることが重要になっていくのかもしれません。
そして、AIには再現しにくいものとして挙げられたのが「身体性」です。
地域の空気感、人と直接話したときの感覚、現場で感じた違和感、地域住民の熱量。
こうした「肌感覚」は、AIが大量の情報を処理するだけでは置き換えられないものです。
AIが情報を均質化していく時代だからこそ、実際の社会とつながり、自分自身の感覚を働かせることが、社会科の学びにおいてより重要になっていくのではないでしょうか。
4.恒例企画!「今日のまとめを一言で表すと?」
そして、社会科オープンサロンでは毎回恒例となっている、最後の企画。
「今日のまとめを一言で表すと?」
今回も先生方には、一文字ずつ減らしていくという、なかなか厳しい縛りが何故か自然に生まれる中で、今日の学びを一言にまとめていただきました。
「うーん……」と悩みながら、何度も言葉を考え直す先生方。
参加者も「今回は何になるんだろう?」と見守る、毎回楽しみな時間です。
そして、今回の答えはこちら。
川端先生:「違和感」
まず川端先生が選んだのは、「違和感」。
AIの出す答えに対して、「あれ?」と思う感覚。
その小さな違和感を大切にすることが、社会的事象を読み解く批判的思考の第一歩になります。
横田先生:「目的」
続いて横田先生。
AIを使うこと自体が目的になってしまわないように、「何のためにAIを使うのか」を常に問い続ける。
AIに飲み込まれず、自分自身が目的を持って学びを進めることの大切さを、「目的」という言葉に込めてくださいました。
宗實先生:「肌」
そして最後は宗實先生。
「違和感」から「目的」へ。
そして最後に出てきた言葉は、「肌」。
リアルな地域、リアルな人。
実際にその場に行き、人と関わり、自分の肌で感じる身体性こそ、AIによる情報の均質化を超えていく力になります。
先生方がその場で悩みながら、少しずつ言葉を削り、最後に一言へとたどり着いていく。
その過程も含めて、参加者にとっては毎回楽しみな、社会科オープンサロンならではの恒例企画です。
今回も、先生方それぞれの実践や考え方が、ぎゅっと凝縮された一言となりました。
5.サロンの後は、懇親会へ!
そして、3時間のサロンが終わった後は、参加者・登壇者の皆さんで懇親会を開催しました。
サロン中はなかなか聞けなかった授業のこと、普段の実践のこと、そして教育についてのさまざまな話題が飛び交い、こちらも大いに盛り上がりました。
同じ社会科という共通点を持つ先生方だからこそ、初対面でも自然と会話が生まれ、会場は終始和やかな雰囲気に。
「こういう実践をしています」
「うちの学校ではこんなことがあって……」
「今度、一緒に何かできそうですね」
そんな会話があちらこちらで生まれていました。
学び合うだけでなく、人と人がつながること。
それも、社会科オープンサロンの大きな魅力の一つです。
サロンで学び、懇親会で語り合う。
そんな一日を通して、参加者同士の新しいつながりも生まれたのではないかと思います。

6.おわりに〜『ジーニー』が目指す、対話と創造のコミュニティ〜
今回のサロンを通して見えてきたのは、「AIを使うか、使わないか」という単純な二択ではありません。
AIを使うことで生まれた時間や余白を、私たちは何に使うのか。
AIが得意な情報整理や資料作成を任せることで、教員が子ども一人ひとりと向き合う時間を増やすことができるかもしれません。
そして、AIにはできない「人と人との対話」や「リアルな体験」、「自分自身で考え、判断すること」に、より多くの時間を使えるようになる可能性があります。
生成AIは、授業を効率化するための便利な道具であると同時に、
「人間とは何か」
「学ぶとは何か」
「社会科とは何か」
を私たち自身に問い返してくれる存在なのかもしれません。
『ジーニー』はこれからも、テクノロジーと人とのつながりを掛け合わせながら、先生たちが実践を持ち寄り、対話し、新しい教育の可能性をともに考えられる場をつくっていきます。
今回ご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。
次回の社会科オープンサロンについても、現在企画を進めています。
次は、名古屋での開催も検討中です。
「次回も参加したい!」という方や、今後の開催情報を受け取りたい方は、ぜひ教員コミュニティ『ジーニー』の公式LINEにご登録ください。
次回、また全国の先生方とお会いできることを楽しみにしています。
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